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ロックダウン中の官邸パーティーや下院での問題発言などで辞任圧力が高まっているボリス・ジョンソン英首相が、新しい広報部長を前に、「私は生き延びる」と歌ったことが明らかになった。歌詞は、グロリア・ゲイナーさんのヒット曲「I Will Survive」(邦題「恋のサバイバル」)の一節。着任間もないグト・ハリ広報部長が7日付のニュースサイト記事で明らかにした。
ロックダウン中のパーティ―問題などで揺れる英首相官邸では3日から4日にかけて、ジョンソン氏の長年の側近を含めスタッフ5人が相次ぎ辞任した。その1人のジャック・ドイル前広報部長の後任として、ウェールズ出身でBBCなど複数の報道機関の元記者、グト・ハリ氏が就任。ハリ氏はウェールズ語ニュースサイト「Golwg 360」に対して、4日にジョンソン首相と官邸で会ったと話した。
ジョンソン氏とは旧知の中で、ロンドン市長時代の広報部長でもあったハリ氏は、人気曲「I Will Survive」の歌詞をジョンソン首相とお互い「笑いながら」歌いあったと、「Golwg 360」に話した。
ハリ氏は官邸執務室に入ると「首相、グト・ハリ、着任いたします」と敬礼したのだと話した。すると首相は立ち上がり敬礼を返しはじめたが、「僕は何をやってるんだ。君の前にひざまずくべきなのに」と答えたという。
元BBC記者でもあるハリ氏は昨年、イギリスの保守系メディア「GBニュース」を辞任。イギリスの黒人サッカー選手に対する人種差別を話題にする中で膝をついたことが、局にとがめられたのがきっかけだった。
首相との今回のやりとりについては、「あなたは生き延びるんですかね?」と尋ねると、首相は低い声でゆっくりと「I will survive(生き延びる)」と答え、最後に少し抑揚をつけて歌ってみせせたのだと、ハリ氏は明らかにした。
「明らかに(歌詞の続きの)『これからの人生をたっぷり生きていく』と続けるよう促していたのでそうすると、(首相は)『たっぷりの愛をあげられる』と続けて、2人してそうやってグロリア・ゲイナーをひとしきり歌った」のだという。
ハリ氏によると、笑いながら歌った後は、2人して「座って、いかに政府を軌道に戻し、これからどう前進していくか、まじめに話し合った」という。
ハリ氏はさらに、「話し合った内容の9割はとてもまじめなものだったが、彼は独特の個性的な人なので、面白いやりとりもする。一部の人は(ジョンソン氏について)まるで悪魔みたいな人間だと誤ったイメージを抱いているが、そんなことはない」と述べた。
また、首相は「まったくの道化ではなく」、「とても人に好かれる人間だ」とも話した。
1978年の発表以来ダンスナンバーとして長年人気の「I Will Survive」の歌詞は、自分をひどく扱う恋人に向かって「あなたなしでは生きられないとおびえていたけれども、そうではないと分かった。私は生き延びる。だから出て行って」と宣言する内容。
就任間もないハリ氏がこうしたやりとりを明らかにしたことについて、スコットランド自治政府のニコラ・スタージョン首相はツイッターで、国民が新型コロナウイルスと物価高に苦しんでいる時に「まったく面白くない」し、「不快」だと批判した。
最大野党・労働党の広報官も同様に、「首相の新しいチームは『心機一転』だと触れ回っておきながら、またしてもくだらない道化芝居で心機一転を開始したというわけだ」と批判した。
これに対して首相官邸の報道官は、ハリ広報部長が「政府の政策課題の推進にしっかり注力している」と述べた。
労働党はさらに、ハリ氏が中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)のロビイストとして働いていた経験を問題視している。アンジェラ・レイナー副党首は、ハリ氏の職歴について完全な透明性が必要だと述べた。
イギリス政府をはじめ複数の欧米政府は、中国共産党政府と密接なつながりのあるファーウェイ製の機器を、安全保障上の理由から政府調達から除外している。
これについて官邸報道官は、「貴重な経験と専門性を持つ人を、政府から排除することはない」として、ハリ氏は過去に「民間企業を顧客としてにアドバイスを提供」しており、「これは完全に正当で、公表されている内容」だと説明した。
一方、新しく首席補佐官となったスティーヴ・バークリー内閣府閣外相は7日、清掃や警備の担当を含む首相官邸の全職員を集めて、「この数週間は大変だったと思う」とその苦労をねぎらい、今後は首相にとって大事な政策課題に集中していきたいと方針を述べたという。
またジョンソン首相は同日、記者団に対し、「官邸と財務省の全員は協力しあって働いていて、この国が直面する大問題に取り組んでいる」と述べた。
一連の官邸パーティー問題に加え、ジョンソン首相は1月31日の議会で、没後に数々の性犯罪が明るみに出たテレビ司会者ジミー・サヴィル氏を、野党・労働党党首のサー・キア・スターマーが検察庁長官時代に起訴しなかったと、証拠を示さずに発言した。
スターマー党首に関するこの根拠のないうわさは、右派系陰謀論としてオンラインに出回っているもの。検察庁は、スターマー党首は検察庁長官としてこの件を担当しておらず、2013年に再検討された際にも関わっていないと述べている。
このため、与野党から首相は発言を撤回し謝罪するべきだとの声が上がり、ジョンソン氏は3日までに、「(スターマー党首が)個人的にこうした決断をする立場になかったことはよくわかっている」と、語調をやわらげた。
しかし、ジョンソン氏の側近をロンドン市長時代から14年間務めたムニラ・ミルザ政策主任は3日、31日の当初の首相発言を「下品な中傷」だと厳しく批判し、辞任した。続いて、ジャック・ドイル広報部長、ダン・ローゼンフィールド首席補佐官、マーティン・レノルズ首席秘書官が辞任し、4日には教育政策顧問のエレナ・ナロザンスキ氏も辞任した(肩書はいずれも当時)。
スターマー党首に対しては7日、議事堂近くの議員会館前で、党首を取り囲み激しく罵倒する集団があり、2人が逮捕された。党首に対して「裏切者」や「小児性愛者を守るなんて」などと罵声が飛び様子が、現場の映像から確認できる。
(英語記事 Boris Johnson sang 'I Will Survive' to new communications chief Guto Harri)
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