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■連載/法林岳之・石川 温・石野純也・房野麻子のスマホ会議
スマートフォン業界の最前線で取材する4人による、業界の裏側までわかる「スマホトーク」。今回は「MWC Barcelona 2021」について話し合っていきます。
※新型コロナウイルス対策を行っております
房野氏:世界最大級の携帯電話関連の展示会「MWC Barcelona 2021」が6月28日から7月1日まで開催されました。今回はリアル会場とオンライン配信のハイブリッドでしたが、どうでしたか?
房野氏
石野氏:MWCは本当に開催されたのかな(笑)
石野氏
法林氏:ドコモが本社ビル内で、報道向けに出展物のデモや展示内容の説明をしたんだけど、大きなスクリーンで現地会場の映像を見た時に、「あー、バルセロナー!」って思ったね。
法林氏
房野氏:現地へ行きたかったですねぇ。
石野氏:クアルコムやベライゾンのCEOが登場した基調講演映像を見たんですけど、基調講演といいつつ見ている人はパラパラと着席しているだけ。会場で登壇した人もいたんですけど、ほとんどはバーチャル出演でした。
石川氏:AWSのCEOもバーチャルだった。Verizonの人が現地で話していたね。
石川氏
石野氏:Verizonは、CEOが映像で、現地にはCSO(最高戦略責任者)が来ていて、ボストン・ダイナミクスの犬型ロボットのデモをしていた。
石川氏:映像を見る限りは、例年のMWCの最終日の午後みたいな感じ。
石野氏:あれで「MWCの復活」というのは、ちょっと無理があるんじゃないかと思った(笑)
石川氏:入場者数を5万人に制限していたけれど、5万人もいないように見えた。
石野氏:主催者のGSMAがやっている「Mobile World Live」というサイトで会場の中継をしていましたが、全然人が歩いていなかった。例年のぎっしり混雑していた来場者はどこに行ったんだと。
石川氏:来年、2022年のMWC Barcelonaは2月28日から3月3日までの開催予定になっているけど、今回、ブースを出さなかった企業の場所に新しい企業が出展していたようなので、ちょっと会場の地図が変わるんじゃないかな。
房野氏:エリクソンは例年、広い場所を使っていますが、そこに今回はテルコDRという会社が入ったそうですね。
石川氏:アメリカのクラウドの会社だそうです。
石野氏:エリクソンが戻ってきたら、場所を返してって言いそうな気がする(笑)
石川氏:クラウドの会社はね、来年はMWCに出展しないかもしれないから。
スマホ関連では、クアルコムが「Snapdragon 888+」を発表したくらい。あと、サムスンがスマートウォッチの「Galaxy Watch」についてちょっと話したけど、「新製品はまた今度発表するね」みたいな感じだった。
一番熱いのはO-RAN(オープン無線アクセスネットワーク)関連。ネットワーク関連が今後は進化しそうだと思いました。汎用サーバが導入されて、オープンでいろんなメーカー、ベンダーの製品が使えるようになりますよと。いろんな課題はあるけれど、そういった世界観になるでしょうと。なので、NECも結構、勢いづいている。キャリアが採用するという話もある。楽天モバイルがやってきた「完全仮想化」の時代がようやく現実化している中で、楽天モバイルのアドバンテージが今後どうなっていくのかという注目点もある。
【参考】O-RAN仕様準拠の5G無線機:5G|NEC
石野氏:O-RANといっても、ノキア、エリクソンといった基地局ベンダーは今回、全然出展していないので、いまいち盛り上がりに欠けましたね。
石川氏:インテルもオンラインでの発表。NVIDIAはGoogleと組むと発表した。ネットワークに半導体を入れましょう、プロセッサを入れましょう、GPUでごりごりAIを回しましょうという話が具体的に出始めているので、今までは「なんちゃって5G」だったんだけど、これからようやく真の5Gになってくる。そうなると面白くなる気がしています。
石野氏:そんな発表が、だいたいバーチャルで行われた。現地では何を見ることができたんだろうと、ちょっと気になりました。NECはO-RANの製品が海外キャリアに採用されている発表をして、バーチャル展示をしてましたね。
房野氏:私はO-RANについて、今ひとつ理解していないのですが……。
石野氏:例えば、エリクソンの設備だったら、今まではアンテナのポールやコアネットワークまで全部エリクソンの製品だったんですけど、単純にバラしましょうということ。
法林氏:ものすごく、めちゃくちゃ乱暴にわかりやすく言うと、従来のネットワークとO-RANは、メーカー製パソコンやMacと、自作パソコンくらいの差がある。
石野氏:そうそう、そんな感じ。
石川氏:「高額だけど完全パッケージ」か、「自分の好きなスペック、好きな値段の部品を選んでください」か、みたいな感じ。
房野氏:なるほど。
石野氏:アンテナはエリクソンで、コアネットワークはノキアで、みたいな。今、楽天モバイルがやっているような組み合わせですね。
法林氏:ただ、そうすると「自作パソコンだとこれが動かない」みたいなことがネットワークで起こりうる。自作と同じリスクがある。
石川氏:O-RANになることによって、「ウチはこの部品が強いので、ここだけやります」といって参入するところは増えます。また、ドコモはキャリアとして、「こういった組み合わせだったら動く」ということがわかっているので、「これを海外でも使ってみてください」というアプローチができたりもする。
法林氏:ドコモとAGCがユニークなアンテナを作っていますね。ああいう会社から「アンテナだけウチから買いませんか?」みたいな話が当然起こりうる。もちろん、出して売るだけにはいかないので、売りに行ったりサポートしたりしなきゃいけない。それも含めてビジネスチャンスではある。
ただ、相当大変だと思います。トラブルが起きた時に、どこに原因があるのかが突き止めにくくなる。今までだと、その昔、ソフトバンクが障害を起こした時のように、「今回はエリクソンが悪いんです」といった発言で済ませられたけど、そういうことは言えなくなる。
メタサーフェス技術によりミリ波帯(28GHz帯)の電波を屋外から屋内に効率的に誘導する「メタサーフェスレンズ」のプロトタイプ(透明化処理前)
石野氏:キャリア自身が悪いですってことになる。
法林氏:ちゃんと自分たちで、どういう部品で構成しているかを把握しておく必要がある。例えば、A地区にある基地局のアンテナでトラブルが起きた場合、どこの製品かを確認して、それはB地区のあそこにあるものと同じだから確認してこい、みたいな話になるわけです。
房野氏:保守とか、どうするんでしょうね。
法林氏:保守を専門にやるところがある。でも保守とかよりも、ガラスアンテナとか、メタサーフェス技術による窓ガラスの電波レンズ化とか、そういうところでいろんな会社にビジネスチャンスが生まれると思っています。日本はガラスが強いので、そこは期待しています。
石野氏:一方で、今までの4Gの設備、ノキアやファーウェイ、エリクソンなどが作っているものとの接続性は大丈夫かという話もある。既存ベンダーが必要なデータを明かさないかもしれない。
法林氏:既存ベンダーが仕様を明かさないということが、もしかしてあるかもしれないけど……基地局のベンダーさんに丸投げ状態で運用していた会社は色々と大変だと思いますが、自分たちで作っている会社は、いろんなものが入ってきても、工夫して組み合わせることができるでしょう。
石野氏:そうなんですよね。日本だとドコモやKDDIは自分たちでやっていると思うんですが、海外では丸投げ派が主流なんですよ。オープンになったからといって、エリクソンが請け負っているネットワークに、NECの設備をエリクソンが買って入れるかといったら、それはないでしょう(笑)。どこまで効果があるのかなと、ちょっと思いますね。
石川氏:ノウハウの部分は大きい気がするし、実際、エリクソンは「O-RANは10%くらいしか普及しないのではないか」と言っている。ただ、O-RAN時代になっても対抗できる策は着実にうっているので、ガラッと状況が変わるかというと、そうでもないんじゃないかと思っています。汎用サーバについて、設備投資額は減るかもしれないけど、消費電力が半端ないって話はよく聞きます。
法林氏:パソコンの話で例えると、元々、メーカー製の出来合いのパソコンが広く使われていて、そこに自作パソコンが登場し、マザーボードなどのパーツなども数多く販売されるようになった。でも、自作したものがちゃんと動かなかったり、組み立てが難しかったりして、そのニーズに応えるため、人気のパーツで組み上げたショップブランドの製品が出てきた。自作パソコンって、部品同士の相性が悪いと動かなかったり、いろんな面倒なことが起こるんです。そうするとショップブランドの人気が出てくるんだけど、「やっぱりちょっとサポートが……」「あのショップは不安だよね」みたいな話が出てくる。というわけで、だんだん自作パソコンは一部の好きな人たちが楽しむものになってしまった。それと同時に時代はノートPCに移っていった。そうすると自作は売れない。そんな中、インテルなんかがやっているNUC(Next Unit of Computing)という、ほぼ組み上がったキットみたいなものが出てきた。それにSSDとメモリとを挿して、電源ケーブルを自分で買ってきて組み上げれば、パソコンができました、となるわけです。
このストーリーを携帯電話のネットワークに当てはめると、やはり出来合いのものは優れているわけですよ。それを、コストを下げるために自作でやろうとするんだけど、絶対どこかで動かないとかサポートが足りないとかが出てくるわけです。半分キットみたいな、要するにO-RANのキットみたいなものが、僕は出てくるんじゃないかと思っているんです。
石野氏:ドコモがやっている「5GオープンRANエコシステム」が、それに近い。
ドコモ「5GオープンRANエコシステム」
石川氏:推奨パッケージですね。
法林氏:「NECのこれと、インテルのこれと、なんとかの組み合わせはO-RANでできているんですが、どうですか?」といって、アジアの国とかに売りに行くと、「じゃあ、それを買います」となる。
石野氏:楽天の「Rakuten Communications Platform」みたいに、コアネットワークは全部ソフトウェアで作って、海外に売っていくことができるので、ベンダーがいろんなところでビジネスできる。ソラコムみたいなところもベンダーの1つとしてコアネットワークを売れるようになるし、面白い時代にはなってきています。逆に、エリクソンやノキアから見るとマイナスな部分もある。
法林氏:難しいのは、最終的には信頼性が付いて回ること。携帯電話ネットワークは止まることが致命傷。O-RANにしました、なんとかできました、コストが下がりました、でも、昨日雷が鳴ったらネットワークが止まりました、ということでは困る。だからそんなに簡単な話ではない。
石野氏:結局、蓋を開けたら大手ベンダーが全部仕切っていた、ということになる可能性もあるので。
法林氏:電話機の交換機も結局はそういう流れ。昔は、タンスみたいに大きなものに、プラグを人が抜き差ししていた。その後、全部機械で制御するものが出てきて、最近はソフトウェアでコントロールしている。だんだんオープン化していく。ただ、自作パソコンと決定的に違うのは、とにかく信頼性です。ものすごい信頼性を求められる。
石川氏:数年前、楽天モバイルが完全仮想化で先行する中、「信頼性も必要なので、すぐには導入できない」というのが、ほかの3キャリアの共通認識だった。ただ、それがようやくなんとなく動き始めたのが2021年のMWC Barcelonaだった気もする。
法林氏:最初は部分的になるよね。
石川氏:MicrosoftのAzure(Azure クラウド プラットフォーム)もキャリア向けパッケージを展開するらしいので、そうなってくると何年か後には「システムはAzureで動いています」ってことにもなるかもしれない。MicrosoftとかインテルとかNVIDIA、AWSとか、あのへんが中心になっていく世界もあり得そうだなっていうのが、なんとなく今回のMWCで見えた。
石野氏:ソラコムは、AWSの上にコアネットワークを作ってしまって、ユーザーはそこにアクセスできるようになっている。これを数年前からやっていたという点では、かなり先進的な気がしますね。ああいうことを、これから大手キャリアもやろうとしている。
法林氏:O-RAN云々は、転換期という意味では大事だと思うけど、コンシューマにとって何の意味があるのかというと、何の関係もない。
石川氏:そう、そうなんです。こうしたO-RANの技術や仮想化技術を入れたら価格破壊が起きると書いている記事もあるけれど、違うだろと。
石野氏:そう言わないと記事を読んでもらえないくらい地味な話、という意味でもあるんですよね。無理矢理こじつけて価格の話に持っていかざるをえない。
法林氏:携帯電話料金のコストは何が大きいのかってことですよ。ahamoがなぜ安くなったのかといえば、ユーザーがショップに行かないから人件費がかからないという話なわけじゃないですか。
房野氏:人件費が一番高いということですね。
法林氏:O-RANのような技術はユーザーには直接関係ないかもしれないけど、この1、2年はいろんなことが変わるタイミングだと思うんです。LINEなのか「+メッセージ」なのか、キャリアメールはどうなるのか、みたいな話もそうだし、iMessageについてもそう。いろんなことが変わるタイミイング。
石川氏:そういう視点では、今年のMWC Barcelonaには行きたかった。行きたかったというか、本当に完全にリアルでやってくれていたら、主役が変わっていく様子が見えたんだろうなって気がしています。AWSなどのクラウドの会社がブースを出したり、Azureがキャリア向けに提供される発表があったと思うので。そういう時代の転換期にリアルでMWCを見られなかったのが残念です。
法林氏:ただ、「やっぱり信頼性が大事だから、ノキアさん、エリクソンさん、お願いします」って話になるかもしれない。「出来合いのものでがんばって作ります」とNECがシステムを全部作っちゃうようになるかもしれない。
石野氏:次回のMWCで、ノキアやエリクソンの展示スペースが、GoogleやAWSになっちゃっていたら衝撃的ですよね。
石川氏:端末は中国メーカーの勢いがすごい。特にXiaomiについては、「Mi 11 Lite 5G」が軽くて薄くて、ヤバいなって感じがします。
石野氏:バリバリ動くし、カメラもそれなりに撮れるし、挙げ句の果てにおサイフケータイに対応し、割引一切なしでも4万3800円。goo Simsellerだと、期間限定だけど、OCM モバイル ONEのSIMとセットでなんと2万円で買える。
石川氏:OPPOの「Rino5 A」に価格を合わせてきたのが、勝負しているなと。
石野氏:実質的に、Rino5 Aより安いんですよね。おサイフケータイが入っていて、グローバル版より安くして、完全にOPPOを狙ってきた。その意気込みがすごい。
石川氏:Xiaomiの東アジア担当ゼネラルマネージャー、スティーブン・ワンさんへのインタビューで、Xiaomiは日本国内でのブランド力はないけれど、どうするのかと聞いたら、「ウチは広告費よりも開発費を費やして良い製品を作り、口コミで広げていく」という話をしている。確かにそうかもねと、その時は半信半疑だったんだけど、実際に製品に触ってみると……
石野氏:いいんですよね。
石川氏:Rino5 Aとの差が歴然なんですよ。
房野氏:そんなに違いますか?
石野氏:全然違う。OPPOは指原莉乃をキャラクターに使って広告を出しているけれど、その広告代が結構高いんだなと(笑)。Mi 11 LiteはSnapdragon 780Gのチップに、あの薄さに……おサイフケータイはRino5 Aも搭載しているけれど。細かいところだと、バイブレーションのフィードバックもMi 11 Liteの方がいい。
石川氏:広告を出さないということに納得した。そのくらいの差があった。
石野氏:Mi 11 Liteだったら、ハイエンドモデルを使っていた人でも移れますよ。移っても何も違いがわからないと思う。薄型ハイエンドスマホだなって思うくらいによくできている。これで4万円台でいいの? って思いましたもん。
房野氏:Mi 11 LiteはSIMフリーモデルだけですよね。
石川氏:そうです。MVNOは扱う。
石野氏:IIJmioとBIGLOBEモバイル、goo Simseller。
房野氏:OPPOはY!mobileなどのキャリアさんに納入できたことが強かったなと思うのですが。
石野氏:そこはそうなんですよ。
法林氏:OPPOは指原効果(イメージキャラクターにタレントの指原莉乃を起用)で市場に名前を浸透させることに注力して、こういう言い方をすると怒られるんだけど、「ポストファーウェイ」(ファーウェイの後を継ぐ意味)みたいなポジションをうまくつかんだ。彼らの最大の課題は、そこから上に行けないこと。つまり、Rinoシリーズは出せるんだけど、Find Xシリーズはそう簡単に売れないわけですよ。
Xiaomiは、今はハイエンド市場はとりあえず狙わないと。MiのLiteシリーズとRedmiシリーズで数を獲りますと。広告を出さない戦略は理解できるんだけど、じゃあヨドバシカメラの店頭に行って、指原の顔写真が貼ってある端末と、Xiaomiと書いてある端末を見た時に、ユーザーはどう感じるか。そりゃ中国やアジア圏に遊びに行ったことがある人は、Miのロゴを見たことがあるかもしれないけど、それはたぶん100人に1人くらいだと思う。Xiaomiの日本での知名度はまだ低い、それをどうしていくか。
石野氏:Y!mobileが扱っているか、いないかという違いは、相当大きい。楽天モバイルもOPPOを扱っている。Xiaomiは販路が狭すぎるので、一般の人に目に触れる機会が非常に少ない。CMも当然やらないし。Mi 11 Liteはいい端末なんだけど、数はRino5 Aの方が出るだろうなって気がする。
石川氏:Xiaomiが浸透するのには時間がかかりますよね。
法林氏:おサイフケータイを載せる時はキャリアに納入して、キャリア専売モデルで行きますといった戦略を採用したのがファーウェイ。SIMフリーで出しますよ、といっておサイフケータイを載せてきたのがOPPO。Xiaomiは、その2つを踏まえた上で両方出してきた。やっぱり時代とともにプレーヤーが変わってくる感じがするよね。Xiaomiはブランド力を上げていって名前を知ってもらえるかどうか。
石野氏:XiaomiはOPPOより、ベースの知名度が日本でも若干高い。「中国のApple」みたいな感じで一時期すごく報道された。
法林氏:それがどれだけ浸透しているかだね。
石川氏:一般ユーザーにはまだまだ知られていないので、そこが課題。先日、話を聞いたOPPOの担当者は、Renoシリーズが売れなかったら日本から撤退するくらいのタイミングだった、ということを言っていました。日本に上陸したけれど売れずにヤバいという中で、おサイフケータイに対応し、指原莉乃を広告起用して売れるようになったということだった。OPPOは早いタイミングで「日本はやっぱりCMをやらないといけない」ということに気がついた。だってOPPOが参入した当初、トウ・ウシン社長は「中国と同様に口コミで行く」と言っていたんですよ。それがコロッと戦略を変えたのは、日本の市場を理解したから。Xiaomiはどっちに振るのかなと。コロナ前の路線を突き進むのか、ちょっと色気を出してCMをやるのか、注目だと思っています。
法林氏:OPPOは指原莉乃をCMに使ったせいもあって、中国っぽさをあまり感じさせないけど、Xiaomiは中国メーカーっぽさがある。今の情勢の中で、どこまで受け入れられるかはちょっと気になる。ファーウェイと同じで、Xiaomiはアメリカ商務省のリストの候補になったとかいうニュースに出てくる名前の1つなので、ユーザーとしてはちょっと気になるところです。
石川氏:そこで注目なのがドイツですよ、ドイツのメーカーが作った「Leitz Phone 1」。
石野氏:中身は日本メーカー(シャープ)じゃないですか(笑)
石川氏:いいタイミングで「AQUOS R6」をリリースできて、シャープはうまいことやったなって気がする。シャープというかソフトバンクかもしれないけど。
法林氏:ライカ、ソフトバンク、シャープのプレイヤーの構図は誰もわからないよね。ソフトバンクがライカと、という話があるし、その一方でシャープは、一時期、端末を売っていたので、実はドイツと行き来があったはず。
石川氏:発表会ではライカとソフトバンクという言い方になっていて、タイミングがほぼ一緒だったのかもしれない。だけどライカとシャープだけでは、この話は成立しなかったと思います。シャープ単独でLeitz Phone 1はできなかったと思うんです。なぜなら、SIMフリーで売るには限界があるから。ソフトバンクという後ろ盾、ソフトバンクが買ってくれるからこそ実現したという部分はある。つまり何がいいたいかというと、今、日本では端末と回線の分離モデルが導入されているけど、本当に分離が進むと、Leitz Phone 1みたいな面白い端末が出てこなくなると思う。メーカーに対してキャリアが担保する、「オリジナル端末を作ってくれ」という関係性があるからこそ、日本では面白い端末がたくさん出てくる。だから総務省がやっていることはどうなのかなと。
石野氏:Leitz Phone 1に関しては逆にSIMフリーの方がいいなって感じもする(笑)
石川氏:SIMフリーで出さざるを得ない。
石野氏:SIMフリーといっても、SIMロックがかかっていないソフトバンク版を単体で買えるってことですよね。
法林氏:対応バンドの問題は別にあるけれど、あのスタイルは今後の売り方を先取りしている。
石野氏:カメラが売りの端末で、発表会でカメラアプリが起動できないというのはどうなんだとは、ちょっと思いました。まぁでも、ライカのこだわり、監修がすごいのは、AQUOS R6の画質を見ると一目瞭然です。
法林氏:AQUOS R6の評価が、モバイル業界とカメラ業界でちょっと違うのが面白いと思っている。カメラ業界の人は「ライカの基準から見た時に、この画質はね……」という表現。
石川氏:値段が違い過ぎますから。
石野氏:そうそう。
法林氏:僕らは「去年までのAQUOS R5Gと比べると、こんなに上がった!」と思える。
石野氏:絵作りがファーウェイの端末にそっくりですよね。
房野氏:ファーウェイより、少し暗い感じだと思いました。
石野氏:この座談会で僕と石川さんが懸念していたシャッターラグのダルさが直っていなかった。あれ、人物が撮りにくいんですよ。
石川氏:遅れるよね。
石野氏:子どもを撮ろうとしたら、子どもがフレームアウトしちゃうくらい遅れるので。
石川氏:あと、暗所での動画の画質が悪い。
法林氏:昼間の動画は良く撮れると思ったんだけど、暗いシーンはまだちょっと……。センサー自体は性能が上がっていると思うけど、読み出しなどのスピードには、もしかすると今のSnapdragonのキャパではちょっと足りないのかもしれない。
石野氏:あと、メモリ積層型のセンサーを使っているXperiaとかは、すごく速いんですよ。カシャカシャカシャカシャと撮れる。
法林氏:1インチセンサーは明らかに大きい。デジカメ用のセンサーとスマホ用のセンサーって別モノなんですよ。スマホ用には、開発しやすくするような道具が全部揃っているんです。その点、デジタルカメラ用のセンサーを採用したAQUOS R6やLeitz Phone 1では全部ゼロから作らないといけないので、並大抵のことではないです。単純にソフトウエアを当てはめるだけだと、うまく動かないんだそうです。そこがすごく苦労したようです。
石川氏:AQUOS R6もLeitz Phone 1もいいんだけど、これからの進化も楽しみだなと思った。
石野氏:使い勝手までライカに監修してほしかったな。Leitz Phoneという名前を冠した時に、あのシャッターラグでいいのかなと。ちょっとなぁ……。
法林氏:僕はライカのカメラで撮ったことはないけどね。そんな高級なものは触ったことない(笑)
石野氏:ライカだから芸術的な風景を撮っていればいいのかもしれないですけど……ソニーってすごいんだなって思いましたよ。AQUOS R6を使ってみて、改めてXperiaのカメラはよくできているなと思いました。
石川氏:ひるがえって考えると、大変なのがわかっているからソニーはXperiaに1インチセンサーを載せないんだなと。
石野氏:バランスを見て、こういう設計になっているんだと。ただ、AQUOS R6は風景とかモノを撮ると、抜群にきれいです。
石川氏:そう、やっぱりあれは魅力だよね。
石野氏:静止物の専用カメラとして。
石川氏:あと、接写が弱いよね。
石野氏:そうですね。
法林氏:それはレンズの構造上、仕方ない。
石野氏:AFの迷いが多い。「その風景でAFに迷う?」って思う。まぁ、初号機っぽい感じの荒削りさがありますね。
房野氏:次期〝AQUOS R7〟に期待、ですか?
石野氏:ソフトウエアアップデートで、ある程度直せるとは思います。
石川氏:ライカとしてはギリギリまでチューニングしたいんだろうなって感じもするし。
法林氏:Leitz Phone 1が正式に発売になるタイミングで、恐らくAQUOS R6もカメラのソフトウェアのバージョンアップがかかると予想している。その時に本当の評価かなと思います。
房野氏:ところで、〝ライカフォン〟じゃないんですよね。
石川氏:ライツのカメラでライカなんですって。ライツのフォンでライツフォン。ライカとして初のスマートフォンです。ライカの名付けに則っていたら“ライフォン”ですよ(笑)
......続く!
次回は、グーグルのpringが買収についてについて会議する予定です。ご期待ください。
法林岳之(ほうりん・ たかゆき)Web媒体や雑誌などを中心に、スマートフォンや携帯電話、パソコンなど、デジタル関連製品のレビュー記事、ビギナー向けの解説記事などを執筆。解説書などの著書も多数。携帯業界のご意見番。
石川 温(いしかわ・つつむ)日経ホーム出版社(現日経BP社)に入社後、2003年に独立。国内キャリアやメーカーだけでなく、グーグルやアップルなども取材。NHK Eテレ「趣味どきっ! はじめてのスマホ」で講師役で出演。メルマガ「スマホで業界新聞(月額540円)」を発行中。
石野純也(いしの・じゅんや)慶應義塾大学卒業後、宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で活躍。『ケータイチルドレン』(ソフトバンク新書)、『1時間でわかるらくらくホン』(毎日新聞社)など著書多数。
房野麻子(ふさの・あさこ)出版社にて携帯電話雑誌の編集に携わった後、2002年からフリーランスライターとして独立。携帯業界で数少ない女性ライターとして、女性目線のモバイル端末紹介を中心に、雑誌やWeb媒体で執筆活動を行う。
構成/中馬幹弘文/房野麻子