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GAFAM(Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft)の製品・サービスを使わずに過ごしてみるこの実験、ここまでは1週間に1社だけ使うのをやめればよかったんですが、今回は5社全部いっぺんにブロックです。ほとんど仙人みたいな生活に突入したKashmir Hill記者は、地獄を抜けた後どんな境地にたどりついたんでしょうか?
私は2カ月ほど前、5大テック企業なしで生活できるか?という疑問に答えるべく、行動を開始しました。5週間にわたってAmazon、Facebook、Google、Microsoft、そしてAppleを1週間にひとつずつ順番にブロックして、彼らの製品やサービスを使わなくても健康で文化的な生活ができるかどうかを実験してみたんです。
この実験のシメとして、私はGAFAM5社全部をいっぺんにブロックしてみました。
実験では単に目に見える製品をブロックするだけじゃなく、彼らのサーバとの見えない通信さえも断ち切ります。Dhruv Mehrotraさんが作った特殊なネットワークツールを使って、通信NGなサーバを細かく設定したんです。なのでGoogleの広告とか分析ツールを使ってるサイトも、Amazonのクラウド・AWSを使ってるサイトも、どれも開けない状態です。
パソコンはPurismという会社が作ったLinuxベースの特殊なもの、電話はNokiaのガラケーで、懐かしのT9入力を再び覚えようとしています。
5社全部のブロックをいきなりやったとしたら、無理だったと思います。アルコール依存の人が12段階で治していくように、私も5社のサービスをひとつずつ使わずに過ごし、最後の実験に備えていきました。GAFAMはデータや権力の集中、社会の支配という意味で問題ではあるのですが、そのおかげで我々の人生がはるかに楽になっています。
この実験の初期には、私は巨大テックなしで知り合いと連絡を取る方法すら思い出せんました。GoogleやApple、そしてFacebookは、動くアドレス帳なのです。
なので実験最終段階の準備として、私はGoogleに入っていた全連絡先をエクスポートしました。衝撃的なことに、その数は8000人に上りました。そしてiPhoneに入っていた1500件の連絡先を、リアルに定期的に話をする143件に絞り込んで、Nokiaの電話に入れました。143という数は、人間が安定的な社会関係を維持するのに適切とされるダンバー数と一致していました。
私はこの実験最終週、電話をたくさんかけました。Nokiaの数字キーボードでテキストメッセージを打つのはイライラすぎたからです。電話すると相手が1回目のコールで不安気に出てくれることがよくあったんですが、それは私が電話をすることが珍しすぎて「何事!?」っていうリアクションだったんでしょうね。
GAFAM全断ちの1日目、私は仕事場に車で向かうときも音楽を聞けませんでした。私が借りている車はフォード・フュージョンで、車載エンタテインメントシステムの「SYNC」はMicrosoftのOSを使っていたからです。この実験ではYouTubeもApple MusicもEchoも使えないのはもちろん、AWSやGoogle CloudにホストされているNetflixやSpotify、Huluも使えないので、全体的にBGMは使えなくなりました。
この静けさのおかげで、私はいつもよりぼーっとしがちになりました。この状態だとたまには、書きかけのゾンビ小説のアイデアが浮かんだり、調べたいテーマが見つかったりします。でもたいていは、やらなきゃいけないことをぐだぐだ考えてしまってました。
こういうことの多くが、実験のおかげでより難しくなりました。たとえばポッドキャスト「Reply All」のAlex GoldmanさんにFacebookとそのプライバシー問題についてインタビューしたときは、まず「どうやって音声を録音するか」ってとこから問題になりました。
私はカリフォルニアに、Alexさんはニューヨークに住んでいます。普通だったらSkypeを使うんですが、SkypeはMicrosoft傘下なので使えません。なので電話で話をして、手持ちのZoomレコーダーで録音することになります。録音自体は問題なかったんですが、その結果できた386MBの音声ファイルをAlexさんに送るとき、この巨大ファイルをネット経由で送る方法がわからないことに気づきました。
まずGAFAM断ちの間Gmailの代わりにしていたProtonMailかRiseupで送ろうとしたら、ファイルサイズが大きすぎると言われました。この2サービスのファイルサイズ上限は、25MBしかありません。でもGoogle Driveはもちろん、DropboxもAmazonのAWS上にあるし、ログインにもGoogleを使っているから実験中はNGです。他のファイル共有サイトも、GAFAMのどれかのWebホスティングを使っています。
じゃあUSBメモリに入れて郵送か?とも考えたんですが、私は思いとどまって、イェール・ロー・スクールのプライバシーラボの代表でデータの自由を提唱しているSean O'Brienさんに電話しました。彼は私が実験用に手に入れたパソコンを作っているPurismのマーケティングも担っています。彼はテック大企業の代わりにオープンソースのテックを使うようにしている人なので、助けてくれるかもと思ったんです。
O'Brienさんはまず、Mozillaが運営する暗号化ファイル共有サービスのSend.Firefox.comを試してみたらといいました。が、このサービスではGoogle Cloudを使っているので、私のパソコンからは読み込めませんでした。次にO'Brienさんは、Share.Riseup.net はどうかと言いました。それは私が個人メールでも使っているラディカルなテック集団によるファイル共有サービスですが、こちらはファイルサイズの上限が50MBでした。
最後にO'BrienさんがすすめてくれたのはOnionshare 、Googleがクローリングしないダークウェブ経由でこっそりファイルをやりとりできるツールです。これを使うにはTorブラウザが必要です。Onionshareは私の友人でThe InterceptのエンジニアをしているMicah Leeが作ったので、私も知っていました。でも残念ながらOnionshare.orgに行ってツールをダウンロードしようとしても、Webサイトを読み込めませんでした。
Micahに直接聞いてみると、「あ、そうだ」とメールで返事がありました。「今、AWSにホストされてるからね。」
この実験の最初にわかった ことは、Amazonのもっとも利益率の高い事業は小売りじゃなくWebホスティングだってことです。無数のアプリやWebサイトがAWSのインフラを使っていて、私はそのどれも今週使えないんです。
Micahは、それならGithubからダウンロードしたら?と言ってくれましたが、GithubはMicrosoftの子会社です。O'Brienさんは、私のLinuxパソコンでコマンドラインを使えば、Micahさんのサーバから直接Onionshareをダウンロードできるよと教えてくれました。O'Brienさんがやり方をイチから教えてくれたおかげで、最後には無事ダウンロードできました。
私はOnionshareを立ち上げて音声ファイルをそこに入れ、一時的なOnionサイトを作りました。次にそのOnionサイトのURLをAlexさんに送り、彼がTorブラウザでそれをダウンロードできるようにしました。彼がファイルをダウンロードしたら私はOnionshareの共有をストップさせると、Onionサイトもダウンし、ファイルはWebから消えました。
(でも結局Alexさんは、Podcastの中でこの音声を使いませんでした。はー…)
上の一件で、GAFAMなしだとたかがファイルひとつを共有するだけで大仕事になるってことがわかりましたが、一事が万事この調子でした。つまり、巨大テック会社のサービスを代替する方法もあるにはあるんですが、まずその方法を見つけるのにすごく時間がかかり、しかもそれらはたいてい使いにくいのです。たとえば検索エンジンとしては、Ask.com(かつてのAsk Jeeves)を使うことになりました。Googleが使えないのはもちろんですが、そのオルタナティブとされるDuckDuckGoも、AWSにホストされていて使えなかったんです。
とはいえ、Ask.comを代替とするのがいいのかどうかもかなり微妙です。Ask.comのオーナーは、メディアやデートアプリを150以上も運営する巨大企業です。つまり私がしたことは、ユーザーの検索行為をお金に換えようとする超巨大企業と、それより多少小さい会社を取り替えただけだったのです。
でも意外なところで楽しいこともありました。私はNokiaでラジオが聞けることを発見したので、ランニングするときは普段Spotifyとか何らかのPodcastとかオーディオブックとかを聞いてるのですが、実験中はNPR(National Public Radio、米公共ラジオ局)を聞くことにしました。あとは南アフリカ出張を計画中だったので、旅行代理店とリアルに会話するのも楽しかったです。旅行代理店なんてネットより高くなるし効率は悪いんですが、旅行予約サイトが使えないのでそれしか方法がありませんでした。
うれしくなかったのはNokia 3310のカメラで、暗くてひどい写真しか撮れません。私は古いキヤノンのコンデジも持ってますが、今週はあまり写真を撮らなくなっていました。FacebookもInstagramも使わないので、撮っても共有する先がないからです。
中には、デジタルでは代わりの方法が見つからないこともありました。個人間送金のVenmoはスマホなしでは使えないので、ベビーシッターには現金で支払いをしました。スケジュール管理には、紙のカレンダーを使い始めました。Mapアプリの代わりにはMarbleがありますが、インターフェースがわかりにくいものでした。なのでなるべく知っているところだけに行くようにして、バックアップとして紙の地図を買いました。
私がマップアプリなしでの運転の大変さを語っていると、あるエンジニアが言いました。
げっ、Nokia 3310はMicrosoft傘下だった!? 私はあわてました。
でもわかったのは、MicrosoftはNokiaのモバイル端末部門を2014年に72億ドル(約8000億円)で買ったものの、その2年後に「フィーチャーフォン資産」を分離し、3億5000万ドル(約390億円)とかわいそうなくらい評価額を切り下げて、FoxconnとHMD Globalに売ったってことでした。FoxconnはAppleの下請けとして有名なところ、HMD Globalは元Nokia幹部が作った会社です。今はHMD GlobalがNokiaの「知的財産」、つまりブランドなどを使って電話を売っています。ほとんどの「Nokia」フォンはAndroidなんですが、「クラシック」シリーズもあって、Nokia 3310はそのひとつというわけです。OSはFoxconnが作ったFeatureOSです。
なのでNokia 3310はGAFAM製じゃありませんが、それに近い存在であることは間違いありません。
HMD Globalが今もガラケーを作っている理由を探るべく、私は香港拠点のチーフプロダクトオフィサー、Juho Sarvikasさんに電話してみました。Sarvikasさんいわく、HMD Globalは当初「クラシック」フォンのコアな市場はスマホの普及率の低いアジアやアフリカだと思っていたんですが、実際はアメリカで驚くほど売れているそうです。
「デジタル面での健康は今、あきらかにひとつの分野を形成しています」と彼。「デトックスモードになりたいときや、普段よりつながりを減らしたいとき、我々はそんなユーザーに道具を提供する会社でありたいと思います。」
「じゃあこの電話は、スマホ中毒に対するニコチンパッチみたいなものなんですね」と私は言ってみます。
彼は笑って、「そんな風に考えたことはありませんが、たしかにそうですね。」
私はこの電話は、子どもにソーシャルメディアとかアプリへの入り口のない電話を持たせたい親をターゲットにしたのかと思っていました。Sarvikasさんは「それもその通りです」と言います。
この実験について私が話をした人の多くは、デジタル菜食主義(digital veganism)に似ていると言いました。デジタル菜食主義者たちは、ある種のテクノロジーを「倫理的でない」として利用を拒否するのです。彼らは自分が使う製品や、利用し共有するデータを細かく見極めようとします。情報とは力であり、ひと握りの会社がすべてを手に入れる傾向が今ますます強くなっていると彼らは考えているからです。
アメリカ自由人権協会(ACLU)のエンジニアでフルタイムのライフスタイル実践家・Daniel Kahn Gillmorさんと会ったとき、彼がリアルに完全菜食主義者であることがわかったんですが、私は驚きませんでした。でも、彼がGAFAMを拒否する徹底ぶりには驚きました。彼は携帯電話すら持たず、支払いも極力現金でしていたのです。
Gillmorさんはチャットでこう言いました。このときのチャットツールはオープンソースのビデオカンファレンスサービス・Jitsiで、どんなWebブラウザでも使えます。ダウンロードすべき専用アプリとかはなく、アカウント作成も不要です。
Gillmorさんは自分でメールサーバを運営し、ほとんどのソーシャルメディアを使っていません。例外はGithubとSourceforgeだけで、その理由は彼がオープンソースデベロッパーで、他の人とコードを共有するためです。彼はソーシャルネットワークに入ることを、他の人を「監視のワナ」におびき寄せるための「エサ」だと言います。
Gillmorさんは、情報の流れはどんどん企業にコントロールされつつあると言い、そんな企業にデータを分析されてお金に換えられないほうが人間の生活は良くなると考えています。
「僕にはこの選択をする余裕があります。(GAFAM利用を)やめたくても経済的に、実用的に、できずにいる人がたくさんいるのも僕はわかっています」とGillmorさん。「僕は、自分と同じ選択をしない人を非難しているように受け取られたくありません。」
実際この選択をするには、代償がかかります。「物事の構造によって、社会的にできる選択を決めてしまいます」とGillmorさん。「たとえば、監視経済から抜け出そうと決めたことで、(Facebook上で)パーティへの招待状を受け取れない、とかね。」
Gillmorさんは「デジタル衛生学」(digital hygiene)の講座を教えていて、そこでは参加者に自分自身のプライバシーやセキュリティについて考えさせようとしています。彼はたいてい講座の1回目に、スマホが基地局と通信しているのはどんなときだと思うかを生徒に質問してみます。
「データはいったん外に出てしまったら、それは我々が予想もしない方法で乱用されうるのです」とも。
Gillmorさんは問題は個人レベルのものではないとし、「環境問題と同じように、集団行動の問題と考えるべき」だと言います。
Gillmorさんは立法者である政治家が参加してくることを期待していますが、技術的な対応も可能だと考えています。つまり、電話番号やメールアドレスのように、互換性のあるシステムを推進するということです。電話は誰にでもかけられて、電話の相手と同じ携帯電話会社を使う必要はありません。そして法律ができたおかげで、携帯キャリアを変えても電話番号は同じものを使い続けられるようになりました。
企業がユーザーを独自のエコシステムに閉じ込められないようになれば、我々はもっと自由になれます。でもそれは、PinterestユーザーがPinterest上にいながら、Facebookで通知されたイベントの出欠確認を出せるということです。AppleユーザーがAndroidユーザーにFaceTimeできる、それをAppleが可能にするということです。
ユーザーを囲い込んでいる企業たちは、誰もユーザーにカギを渡そうとはしません。
私にとっては、Amazonをブロックしているのが一番つらい状態が続きました。
たとえば、友だちのKatieがニューヨークから来たときのこと。私たちはある夜に私の家の近くのレストランでディナーの約束をしました。私はそれを紙のカレンダーに書き込みました。実際に会う日の朝、私はKatieからRiseupのアカウントにメールを受け取りました。タイトルは「どうなってるの?」
Katieは私に何日もSignalでメッセージを送り続けていたのですが、私はそれを受け取れていなかったんです。それは、SignalがAWSにホストされているからでした。Katieは私から返信がないので「メッセージ受け取った?」というメールを私のGmailに送り、私がGmailで設定していた「しばらく使えないのでRiseupに連絡してね」という自動返信を見て、Riseupのアカウントにメールしてきた、という次第です。
私はKatieに、ディナーはちゃんと予定してるからねと返信しました。でもこの一件で私は、GAFAMを使わなくなることの代償を再認識させられました。私自身はオプトアウトできたとしても、他の人は私がその選択をしたことを知らないかもしれないし、知っていても忘れてしまうかもしれないんです。
私は夫にもGAFAM断ちをするよう誘っていたんですが、「僕にはリアルな仕事があるから」と断られていました。その彼に、私がGAFAM断ちをしていることで彼にとって一番大変なのは何かを聞いてみました。「テキストメッセージに返信してくれるかどうか、わからないことだよ」彼は答えました。
「どういうこと?」私は聞き返します。「何か返信してなかった?」
「Signalにメッセージをいくつか送ったんだよ」と夫は言います。彼は、私が今Signalを使っていないことを忘れていたんです。
GAFAM断ちは会話のネタにはなるし、そうじゃなくてもいつもより人と話すことが多くなりました。人が集まるような場で手持ち無沙汰なとき、スマホを見られないからです。
ある名門大学の教授は、定期的にGoogleブロッカーを使っていると言っていました。いわく、「税金を払う手続きのときは、無効にする必要がありました。IRS(米国の国税庁にあたる)のWebサイトでは、Google Analyticsを使っていたからです。」ある意味恐怖だった、と彼は語りました。
35歳以下の人はスマホのない生活に興味津々、ときには嫉妬すらしていました。35歳以上の人は、懐かしそうな反応でした。
ある夜、私はInternet Archiveを立ち上げたBrewster Kahleさんに偶然会ったので、この実験の話をしたら、彼は喜んでくれました。彼はこんなエピソードを語っていました。
ときに私たちはテクノロジーを生活に取り入れる選択をしますが、ときにはテクノロジーが押し付けられることもあります。TVメーカーはその製品を監視マシンに変え、 私たちが何を見ているのか、または見ていないのか、場合によっては何を言っているのか、といったデータを集めています。TVのほとんどが今そんなところまで来ているのです。
今週、私はTVを見るのを全部やめました。私たちはケーブルTV契約をしていないし(訳注:米国では基本的にケーブルTVに加入しないとTV放送は見られない)、インターネットTVはGAFAM断ちのおかげで使えないからです。私は「GAFAM全断ち」を「テクノロジー全断ち」にするつもりはなかったのですが、私の意志とは関係なく事実上そうなってしまいました。
私はこの点、スマホ市場の現状が一番納得いきません。私はGAFAM系じゃないスマホなら使う気満々なのですが、そういうものは今商品として存在していないのです。今それを手に入れられるのは、テクノロジーに精通していて、特殊な端末にカスタムOSをインストールするスキルのある人だけです。ただこれはもうすぐ、EeloとPurismが商品化を予定しています。
かつて私は、この手の理想主義的プロジェクトは失敗するのが必定だと思っていました。でも最近、巨大テックが生み出すディストピアについて認知が高まっているようです。GAFAMへの批判はあちこちで噴き出しています。
たとえば知り合いのライターは、New York Timesでこんな論評を書きました。「Amazonが嫌い? ならばAmazonなしの生活を試してみるべし」(彼女自身がAmazonなしで生活したわけではないです)。CNBCのテック記者は、自分がFacebookとInstagramを3カ月間使っておらず、そのおかげで「もっとハッピーになれた」と言っています。CBSの記者はGoogleを使うのをやめようとして失敗しました。Viceの記者はGAFAM全部を1カ月間(私ほど徹底的じゃないですが)使わずに過ごしました。New York Timesは、ユーザーの位置情報を恐ろしく定常的に細かくトラッキングするアプリについて書いています。
巨大テックは私たちのデータを売買する基本インフラのすべてを規定しました。彼らは私たちに公開プロフィールを書かせ、トラッキングデバイスをポケットに入れて持ち歩かせ、こっそりデータを吸い上げるアプリをダウンロードさせてきました。
カリフォルニア州のある下院議員は問いかけました。
その疑問は社会全体にただよっています。巨大テック企業は長年、世界のつながりを促進し、情報を入手しやすくし、取引をより簡単に低コストにさせるとして崇拝されてきました。その彼らは今、突如として怒りの標的になっています。その理由は、彼らがプロパガンダや虚偽の拡散を助長したこと、我々を彼らのサービスに危険なほど依存させたこと、そして私たちのプライバシー情報を監視経済の通貨に変えてしまったことにあります。
世界には欠陥があり、巨大テック企業たちの責任を問う声は、それが正しいかどうかは別として、日に日に大きくなっています。
ハーバード・ビジネス・スクールのShoshana Zuboff教授は新刊『The Age of Surveillance Capitalism』(直訳:監視資本主義の時代)の中でこう主張しています。データを極限まで分析・加工して利益に換えようとすることで全監視社会は不可避となっていて、それが我々の経済を動かしているのだと。
Zuboffさんの広報の人がその本の新刊見本を電子書籍で送ってくれたので、面白く読んでたのですが、今週はKindleが使えないから読めません。代わりに私は紙の本、ヘンリー・ソローの『ウォールデン 森の生活』を読みました。ちなみにこの本は米国最後の大規模書店チェーン、Barnes & Nobleでオーダーしました。そしてこの本にも、もっと自然に帰れ、現代社会のまやかしにおぼれちゃだめだ的なメッセージがもりだくさんでした。
でもこの本は1854年出版なので、距離を置けと言われてるものはスマホとかスクリーンじゃなく、仕事とか新聞でした。
政府が何をできるのかについて、私はOpen Markets Instituteのフェロー、Lina Khanさんに電話してみました。彼女はAmazonの独占を規制する必要性を訴えた論文で(少なくともアカデミックな世界では)注目されています。
Khanさんはニューヨークでコロンビア大学の研究員として、さらなる論文に取り組んでいます。KhanさんはAmazon Prime会員でもなく、Gmailも使っていません。彼女にも電話でインタビューする予定だったんですが、その直前にWashington Postのビデオプロデューサーを務める女性のツイートを見ました。その女性は、死産を経験した後に赤ちゃん関係の広告を大量に見せられたことで、こんな公開書簡をテック企業に送っていました。
彼女の訴えもまた、プライバシーを握られることの有害性を再認識させるものです。
私はKhanさんとの電話の最初にこの話をして、こういう怒りが大きくなっているのではと言いました。
そうKhanさんは言います。
Khanさんは、独占を死守するテック企業が反競争的に動くのを防ぐには、司法の介入が必要だと考えています。90年代にはMicrosoftに対し、当局が介入していました。
「巨大テック企業のいくつかはライバルを買収し、食いものにしてつぶしてしまいました」とKhanさんは指摘します。最近もFacebook内部から流出したメールの中で、マーク・ザッカーバーグCEOは(当時は競合だった)VineからFacebookのソーシャルグラフへのアクセス遮断に賛同していました。
すでにヨーロッパは動きだしていて、Googleは罰金を科され、FacebookはWhatsAppやInstagramとのデータを統合をユーザーの合意なしに進めることは禁止されました。でも米国の反トラスト法で動くべき当局は、テック企業にはタッチしませんでした。テック企業のサービスは安価または無料で、それは消費者にとって良いこと、つまり当局が推進したい状態だからです。でも「消費者」こそが企業の商品だった場合はどうなるんでしょうか?
今週私の中では、居心地の悪い考えが浮かび続けていました。それは、私たちが独占と監視の経済から逃れられるとしたら、「インターネットのすべてが無料である」という考えを見直す必要があるかもしれない、ということです。
なので私はProtonMailに4つ目のフォルダを作ろうとして、それには無料から有料にアップグレードする必要があると言われたとき、年間48ユーロ(約6000円)を払おうと決めました。その対価として私は5GBのメールアカウントを手に入れ、その中身をスキャンされたり、お金に換えられたりすることがないのです。
でも私は、無料で簡単に手に入るものに対し、誰もが5000円払えるわけではないこともわかっています。だからもし世の中がそっちの方向に行くとしたら、お金のある人はオンラインでのプライバシーを維持でき、お金のない(そして立場の弱い)人たちはデータを利用されてしまうことになります。
この前の週、私の1歳の娘のEllevが、Alexaは「怖い」「気持ち悪い」と、ハロウィンで学んだ概念で言い表すようになりました。その感覚はわからないでもないです。実体のない声がいつもそこにいて話を聞いているというのは、小さな子どもにとって、というか誰にとっても、落ち着かないものです。
でも今週、EllevはAlexaを使いたいと言って泣き続けました。私の家では、子どもが大好きな「Baby Shark」みたいな歌はAlexa以外では聞けません。彼女は「Alexaがないのはイヤ」と言い、私は娘からそれを奪っていることも、こんなに小さい子どもをAIに依存させていることにも、罪悪感を感じていました。
GAFAM断ちの最後の日、私たち家族は西海岸からニューヨークへの飛行機に乗ったのですが、夫はEllevにiPadを見せたいからこの実験を1日早くやめてくれないかと懇願してきました。でも私は6時間のフライトでもこの状態を維持することを断固として譲りませんでした。
「僕だけ離れた席に替えちゃうからね」彼は冗談めかして警告しました。
夫は私の意志が弱まった場合に備えてiPadを充電していましたが、私の意志はゆるぎませんでした。私はEllevに本を読み、磁石のお絵かきボードで遊び、歌を歌い、以前アラスカ航空のおやつパックに入っていた「Wizzle sticks」というくっついたり曲げられたりする棒で少なくとも1時間は遊びました。娘はフライトの最後の1時間半は寝ていましたが、iPadがあれば普段は寝ないのです。
これはEllevにとって26回目のフライトでしたが、着陸した後のタクシーの中で、夫は私に「今回が一番ラクなフライトだったね」と言いました。
私たちは、何ヶ月も前に予約していたブルックリンにあるAirbnbに到着しました(AirbnbはAWSにホストされているので、厳密にはNGです)。アパートメントの外にカギのかかった箱があり、私は4ケタの暗証番号でそれを開きました。そこに入ったカギを使って建物に入り、同じ4ケタの番号で部屋のカギが開きます。私はAirbnbのWebサイトにアクセスできないので、アパートメントの住所と4ケタの番号を紙に書いて持っていました。
私たちは問題なく中に入り、お腹が空いていたので、さっきタクシーから見えたレストランに行きました。その後私たちは食材を買う必要があったのですが、Ellevが疲労困憊していたので私だけAirbnbに戻り、夫が買い物に行くことになりました。私はカギを使って建物に入りましたが、部屋のある4階まで階段を上がった後、暗証番号を書いた紙がないことに気づきました。番号を暗記してもいません。
Ellevは泣いて、ドアノブを回そうとします。私は以前子どもがもっと小さかった頃に感じたパニック、最近ではスマホのバッテリーがなくなりそうなときの感覚を感じ始めました。
私のパソコンはカギのかかった部屋の中にあるはずでした。私はパソコンのパスワードマネジャーを使っていて、オンラインアカウントにはすべてそれで入ります。なのでもし私がGAFAM断ちを今すぐ中断したとしても、別のパソコンではAirbnbにログインすらできないんです。
私の脳のマゾヒスティックな部分が、私がこの状況にあるのはAWSにホストされたサイトを使ったからだとささやきます。普通のホテルを電話で予約してもよかったはずです。それならこんなとき、新しいキーカードをもらって解決です。テクノロジーはテクノロジーで解決できる問題を作りだし、逆もまたしかりです。
Ellevをなだめながら、私はあいまいな記憶をたよりにいくつかの4ケタの番号を試しました。するとそのひとつが当たりでした。中に入るとすぐiPhoneを充電器につなぎ、明日からはまた使えるんだと安堵しました。
テック企業を批判すると、「嫌なら使わなければいい」みたいなことを言われがちです。私はこの実験をしたのは、「嫌だから使わない」が可能なのかどうかを見極めるためです。そしてわかったのは、可能じゃないということです。例外はAppleだけでした。下のグラフは、この週に私のデバイスが各社のサーバに送ったリクエストの数です。
GAFAMを使わざるをえないのは、彼らがネットのインフラやオンラインコマース、情報の流れをコントロールしているからです。彼らの多くはユーザーをWebで追跡することにきわめて長けていて、彼らの製品・サービスを直接使っていないときにも追いかけてきます。初期の彼らは本の販売や検索ツールの提供、大学内の可愛い女の子のショーケースをしていただけかもしれませんが、現在の彼らははるかに強大化し、オンラインの行動ほぼすべてにからんでいるのです。彼らのあり方は、現代版独占企業そのものに見えます。
実験が終わってから、私は再びGAFAMのサービスを使い始めましたが、前ほど使わなくなっています。私は自分が彼らの独占を助長しないために消費者としてできることをすべく、なるべく彼らの代替になるものを探すようになりました。
でも実験は私にとってそれ以上の意味がありました。私は今回、自分の人生におけるテクノロジーの役割を再検証させられました。この実験のおかげで私はひまつぶしに電話をスワイプするという現代の悪習から引きはがされ、周りの人と会話をしたり、リアル世界に刺激を求めたりすることができました。
Words With FriendsとかHeartsといった時間のムダになるアプリは削除しました。Instagramも前より見なくなり、友だちが私をストーリーでタグ付けしてくれても、自分はそれを24時間以内に見ないから消えてしまうほどになりました。
毎晩9時頃にはスマホの電源を切り、次の日も本当に必要になるまでオンにしなくなりました。そこに至るまでには2週間「ニコチンパッチ」的Nokiaガラケーを使う必要がありましたが、最終的には、毎朝ベッド横のスマホに手を伸ばして1日を始めたいという衝動はなくなりました。
iPhoneが毎週出してくれる「スクリーンタイム」のレポートによれば、私がiPhoneを使う時間は激減し、1日2時間もありません。iPhoneはもう「体の一部」というよりは、必要なときに使う道具という感じになっています。知らないところに行くときは今もGoogle MapsとかWazeを使うし、遠くにいる友だちや家族にはテキストメッセージを送るし、Instagramできれいな写真をシェアするし、でも必要ないときはiPhoneをどこかにしまう、そんな力を再度手に入れられました。
私がした実験は、ジュースクレンズ(訳注:ジュースだけ飲んで体をきれいにすると称する美容法)のデジタル版です。たいていのダイエッターよりは事後の「健康」をキープしたいと思っていますが、デジタル菜食主義者になるつもりはありません。私は「スローなインターネット」のライフスタイルを大事にし、自分の生活に取り入れるテクノロジーをもっとしっかり見極めて、そのテクノロジーを作った会社の動機を考えるようにしたいです。巨大テックは良くも悪くも世界のあり方を変えつつありますが、私たちは良いものを選び、悪いものを拒否することができるのです。
私は夫に、GAFAM断ち以来私が何か変わったか聞いてみました。
「時間がわからなくなったよね」と彼は冗談で言いますが、それは本当です。私は電話をたまにしか見なくなったし、周りに時計もないからです。パーソナルデバイスのおかげで、時計が時代遅れになってしまいました。私は前よりもそのときそのときの瞬間に集中できていますが、何時なのかは前ほどわからなくなりました。
これを解決する方法は簡単です。腕時計を買えばいいんです。もちろん、スマートじゃないやつを。
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